外国人にとって、日本語の自動詞と他動詞の使い分けは難しいのでしょうか

タイトル「自動詞と他動詞 外国人には難しい?」。花が育つ様子のイラストと花を育てている女性のイラスト

テレビ番組である外国人が「花を育つ、野菜を育つ、みんなお母さんがした」と話していて、「育てる」を「育つ」と間違えていました。また、ある留学生が「今週から、アルバイトが始めました」と言って、「始まる」と「始める」を混同していました。外国人にとって、自動詞と他動詞の使い分けは難しいのでしょうか。

日本語を外国語として学ぶ人にとって、「出だす・出でる」「入はいる・入いれる」「開あく・開あける」などのペアは有対自他動詞(以下 自他動詞)と呼ばれ、日本語教育の現場でも学習困難な項目の1つとされています。

例えば、以下に挙げるのは、実際の学習者による自動詞(自)と他動詞(他)の誤用例です。

  1. 私は手紙を書くとき、なみだをだします(他)(→涙が出ます(自))。(フランス)
  2. このビンのふたは固くて、なかなか開けない(他)(→開かない(自))。(タイ)
  3. 電車のドアが閉めてない(他)(→閉まらない(自))うちに、急いで電車に乗ろう。(アメリカ)
  4. この間、涙が流れ(自)(→涙を流し(他))ながら~中略~作品をよみました。(中国)
  5. 親が離婚した場合、子供を父と母のどっちが育つ(自)(→育てた(他))方がいい影響を与えると思いますか?(韓国)
  6. (市川保子(編著)『日本語誤用辞典-外国人学習者の誤用から学ぶ日本語の意味用法と指導のポイント』pp.208,209,341より)

これらの誤用例から、自動詞と他動詞の誤用は、どちらか一方に偏っているわけではなく、両方に混同が見られます。また、誤用は特定の学習者の母語に限らず、さまざまな言語背景の学習者に共通して産出されていることがわかります。では、なぜこのような誤用が起こるのでしょうか。

日本語以外の言語で有対自他動詞の区別があるかどうかを調べてみると、多くの言語では自他動詞のペアが存在しないため、母語の影響(母語転移)ではないかと考えられます。しかし、韓国語のように自他動詞の区別がある言語を母語とする学習者にも誤用が見られるため、単純に母語の影響だけでは説明できません。

【英語】 We opened the door.(私達は戸を開けた) The door opened.(戸が開いた)
【中国語】 我们打开了门。(私達は戸を開けた) 门开了。(戸が開いた)
【韓国語】 우리는 문을 열었다.(私達は戸を開けた) 문이 열렸다.(戸が開いた)

学習者が自他動詞を間違える背景にはさまざまな原因があります。小林典子「効果的な練習の方法」では、自他動詞の誤用について、意味理解を伴わない機械的な練習ドリルが原因で、次のような誤解が生じると指摘しています。

  1. 「消えている―消した」を対として覚えている
     (正しくは、「消えている―消えていた」「消した―消えた」の対)
  2. 「開あいて」を「開あける」の活用形だと思っている
     (正しくは、「開あいて」は「開あく」の活用形)
  3. 「開あける」は「開あく」の可能形だと思っている
     (正しくは、有対他動詞)

また、中石ゆうこ「対のある自動詞・他動詞の第二言語習得研究―「つく-つける」,「きまる-きめる」,「かわる-かえる」の使用状況をもとに―」では、「つく—つける」「きめる—きまる」「かえる—かわる」を対象に、文完成法タスクを用いて各動詞対の使用傾向を分析し、以下の4つのパターンがあることを明らかにしています。

  1. どの活用形でも自動詞のみを使用する場合
  2. どの活用形でも他動詞のみを使用する場合
  3. 活用形で使用が固定されている場合
    例えば、同一の話者が辞書形の「ル形」で使う場合は「決まる」の自動詞を使用しています。
    例1) 学校の時は先生が決まる*(決める)/全部決まる/成績で決まるんだから/大学決まる*(決める)
    しかし、「タ形」で使う場合は「決めた」を使用しています。
    例2) 母がきま、決めたんですよ/お母さんが決めた/(韓国語母語話者)
  4. ある活用形において自動詞と他動詞の両方が使用されている場合
    次の例は、同じ「マス形」で「入いれる」「入はいる」の両方が使用されています。
    例3) ~準備して、バスケットの中にサンドイッチを入いれます
    例4) ~地図を見ている時に、犬がマヌケット(バスケット)に入はいります(ベトナム語母語話者)

このような混乱の背景には、語形と意味の理解が不十分であることが挙げられます。また、教材の導入方法にも課題があります。1980年代に広く使用された鈴木忍、川瀬生郎『日本語初歩』では、第18課で(6)のような有対自他動詞を示していますが、その違いを示す絵などの視覚的な説明がなく、言語形式の違いに焦点が当てられているため、自動詞と他動詞のペアは理解できても、その意味の違いを学ぶことは難しいと考えられます。

  1. 電気が つく。
  1. 電気を つける。
  1. 火が きえる。
  1. 火を けす。
  1. 戸が あく。
  1. 戸を あける。

(『日本語初歩』p.145 一部抜粋)

『日本語初歩』から約30年後に出版された平井悦子、三輪さち子『みんなの日本語初級Ⅱ 第2版 書いて覚える文型練習帳』では、図1のように絵を用いて自他動詞の意味を理解させる工夫が見られます。絵を用いた練習は、動作主の有無や働きかけの違いを視覚的に理解する助けになります。そして、一方の図2では自他動詞の対を問う練習も見られます。

『みんなの日本語Ⅱ第二版 書いて覚える文型練習帳』29課の問題図
図1 補助教材の練習問題(p.20)

『みんなの日本語Ⅱ第二版 書いて覚える文型練習帳』より
図2 補助教材の練習問題(p.28)

このように、自他動詞は指導においても、学習においても困難な項目であることが理解できます。発話では誤用が多く観察される自他動詞ですが、作文では考える時間があるので誤用は減るのでしょうか。この疑問を調査した研究があります。迫田久美子「話すタスクと書くタスクに見る日本語のバリエーション-日本語学習者コーパスI-JASの分析に基づいて-」では、同一学習者に対し、図3の5コマの絵を見て物語を考えさせ、すぐに話す場合と考えて書く場合の2つのタスクを実施し、誤用の変化を調査しました。

課題に使用した「Picnic」の絵 1コマ目、2コマ目
課題に使用した「Picnic」の絵 3コマ目、4コマ目
課題に使用した「Picnic」の絵 5コマ目

図3 話す課題と書く課題に使用した5コマの絵「Picnic」

学習者180名の中で、ほぼ同じ場面で話す課題(S)でも書く課題(W)でも自他動詞を使用していた学習者は25名でした。その自他動詞の誤用の変化を調べたところ、話す課題(S)で誤用だった場合、書く課題(W)でも依然として誤用のままの学習者の割合が最も高い割合を示しました。結果を表1にまとめました。

表1 二つのタスクにおける誤用の変化(人数*1と割合)

表1「二つのタスク(話す、書く)における誤用の変化」

*1この表の人数は、12言語の学習者総数180名のうち、発話と作文の同じ文脈で助詞か有対自他動詞に誤用が産出された人数を表し、割合はどのパターンが多いかを示している。

表1では話す課題から書く課題になって、正用に修正できている学習者は5名(20%)であり、話す課題でも書く課題でも誤用が依然として誤用のままで残る学習者は12名(48%)で、半数の割合を占めています。具体例を以下に示します。

  1. S○ W×(フランス語母語話者)
S(話す)○ その犬がそのバスケットに入ってしまった
W(書く)× 犬がバスケットにいれ*(入って)しまいました
  1. S× W○(ベトナム語母語話者)
S(話す)× 突然バスケットの中から犬が出して*二人はとってもびっくりしました
W(書く)○ 突然バスケットから、犬が出てしまいました。二人はとてもビックリ…
  1. S× W×(中国語母語話者)
S(話す)× サンドイッチをバスケートにはいた*(入れた)時に犬が、犬に見られました
W(書く)× サンドイッチをバスケットに入る*(入れる)時に犬に見られました

この結果から、考えられる時間があっても必ずしも誤用が修正されるとは限らないことがわかります。

こうした学習困難な自他動詞に対して、さまざまな工夫を凝らした教材も登場しています。たとえば、中石ゆうこ氏のウェブサイトでは、動画を使って自他動詞を選択する「やってみよう日本語クイズ➀」が紹介されています。補足した状況説明を《 》内に付けて、Q3とQ5の例を示します。このような動画では、動作主の有無や働きかけや意味の違いを視覚的・状況的に理解できるので、非常に有効な教材と言えるでしょう。

今回は、日本語学習者にはどのような誤用が見られるか、考える時間があっても誤用はなかなか修正されないなど、学習者にとって自他動詞の習得がいかに難しいかという状況を紹介してきました。日本に留学したり、日本に住んだりすると日本語は、植物と同様、自然に「育つ」、自然に身につくと思われがちです。しかし、実際には、植物が日光や水を必要とするように、学習者の日本語もさまざまな工夫と努力によって「育てる」必要があるのです。

執筆者

迫田久美子
迫田久美子 さこだ くみこ
広島大学 副理事・森戸国際高等教育学院 特命教授

SAKODA Kumiko
専門分野は第二言語習得研究で、学習者の言語使用(学習者コーパス)を研究しています。データから学習者独自の日本語文法の構築(誤用)の謎を解明すること、学習者が学んだ知識「わかる」を運用「できる」に繋げる日本語指導の開発に取り組んでいます。

参考文献

  • 市川保子(編著)(2010)『日本語誤用辞典−外国人学習者の誤用から学ぶ日本語の意味用法と指導のポイント−』スリーエーネットワーク
  • 小林典子(2001)「効果的な練習の方法」野田尚史、迫田久美子、渋谷勝己、小林典子(著)『日本語学習者の文法習得』大修館書店、pp.139-158
  • 迫田久美子(2019)「話すタスクと書くタスクに見る日本語のバリエーション-日本語学習者コーパスI-JASの分析に基づいて-」野田尚史、迫田久美子(編著)『学習者コーパスと日本語教育研究』くろしお出版、pp.151-168
  • 鈴木忍、川瀬生郎(1985)『日本語初歩』国際交流基金(編)凡人社
  • 中石ゆうこ(2005)「対のある自動詞・他動詞の第二言語習得研究―「つく-つける」,「きまる-きめる」,「かわる-かえる」の使用状況をもとに―」『日本語教育』124号 日本語教育学会、pp.23-32.
  • 平井悦子、三輪さち子(2013)『みんなの日本語初級Ⅱ 第2版 書いて覚える文型練習帳』スリーエーネットワーク