こどもはAIとおしゃべりしていいの?

こどもはAIとおしゃべりしていいの?

小学生はAIとおしゃべりしていいの? もっと小さい幼児は?

小学生によるAI使用:意外と知られていない年齢制限

近年、ChatGPTをはじめとするAIが急速に普及し、私たちの生活に身近な存在となりました。しかし、AI技術が子どもたちに与える影響については、まだ十分に検証されていません。まず、このお話をすると「知らなかった!」と驚かれる親御さんも少なくないのですが、多くの大手AIサービスで、使用できるのは13歳以上で、18歳未満は保護者の同意を必要としています。

こうした年齢制限には、しっかりとした理由があります。まず懸念されるのは、小学生たちが個人情報を漏洩してしまうリスクです。小学生は警戒心が薄く、AIに自分の住所や学校名、家族の情報などを読みこませてしまう可能性があります。また、自撮り写真などをアップロードしてしまった場合、それらのデータがどのように処理され、保存されるかが不透明です。

教育面での問題も深刻です。宿題にAIを不正に使用することで、本来身につけるべき思考力や表現力の発達が阻害される恐れがあります。AIの便利さに慣れてしまうことで、自分で考える習慣を失い、「AI依存」に陥ってしまう危険性も考えられます。加えて、AIには、事実でない情報を堂々と語ってしまう「ハルシネーション」という問題があり、プロの弁護士がAIの「でっちあげた」判例を法廷で引用し、制裁を受けた事例もあります。大人であれば他の情報源と照合して真偽を確かめられるかもしれませんが、小学生にそれを求めるのは現実的ではないでしょう(川原繁人『友だち以上恋人未満の人工知能:言語学者のAI倫理ノート』)。

幼児期は特に注意を:AIと人間の言語は同じではない

では、小学生よりもさらに幼い子どもたちが、AIと「気軽におしゃべり」する程度であれば問題はないのでしょうか。一見すると害がないように思えるこの行為にも、実は重大なリスクが潜んでいます(川原繁人『言語学者、生成AIを危ぶむ:子どもにとって毒か薬か』)。一つの問題は、AIの出力と人間の言語には根本的な違いがあることです。生成AIは主にインターネット上の膨大なテキストデータから言語パターンを習得します。一方、人間の子どもは養育者からの音声による語りかけを通して、言語を身につけます。この学習方法の違いは軽視できません。人間の言語獲得は、対面でのコミュニケーションの中で起こり、そこには感情的な結びつきや共感、相互理解が深く関わっています。対してAIの言語処理は、統計的なパターン認識に基づいた機械的なプロセスです。

AIと人間における言語の学習方法や会話の違いを説明するイラスト

AIには人間のような感情や身体がありません。子どもが「ただいま」と声をかければ、AIは「お帰りなさい」と返答しますが、それは単に「そのような応答が統計的に頻出する」という計算結果に過ぎません。そこには人間が感じるような「帰りを待っていた安堵感」や「再会の喜び」といった感情は存在しないのです。

人間の健全な発達において、身体感覚は極めて重要な役割を果たします。心理学の分野で有名なハーロウがおこなった実験では、サルの赤ちゃんがミルクの出る「針金製の母親」よりも、ミルクは出ないが布で覆われた「柔らかい母親」を好むことが示されました。つまり、愛着形成には、触覚による安心感が不可欠なのです。AIとの関わりでは、このような触覚を通じた愛情や安心感を得ることはできません。

想定される健全な発達への悪影響

人間の認知発達には、五感すべてからの刺激が必要です。しかし、AIとの交流では主に聴覚と視覚の情報のみが提供され、触覚・嗅覚・味覚への刺激が不足します。ここで、「マガーク効果」という実験結果を考えてみましょう。「が」と発音している動きを見ながら「ば」の音が耳に入ると、「だ」という音として聞こえてしまいます——視覚と聴覚は統合されて認識されるのです。さらに、音の知覚は、触覚情報にも影響されることがわかっています。つまり、人間の認知は五感の複合的な働きによって成り立っているのです。ですから、聴覚・視覚刺激しか提供できないAIとばかり交流していて、五感が発達しないと、健全な認知能力が育たない可能性があります。

マガーク効果を説明するイラスト

「共同注意」の機会が失われることも懸念されます。共同注意とは、子どもと養育者が同じ対象に注意を向け、その体験を共有することを指します。例えば、散歩中に見つけた花を一緒に観察し、その美しさや香りについて語り合うような経験です。この共同注意の体験は、相手の気持ちを察する「心の理論」という能力の発達において重要な役割を果たします。心の理論が適切に発達しないと、他者の立場に立って物事を考える力が育たない可能性があります。

五感すべてから刺激を受けて認知能力は育つことを表現したイラスト

AIは臨床試験を経ていない新薬!?

33人の言語学者を対象としたアンケート調査では、生成AIおしゃべりアプリの使用に積極的に賛成する研究者は皆無で、調査対象の半数以上が反対的な立場を示しました(川原繁人、折田奈甫、桃生朋子「子ども向け生成AI搭載おしゃべりアプリの危険性について:言語学的・心理学的・認知科学的観点から」、『慶應義塾大学言語文化研究所紀要』第56号)。総じて、私は、実際に発達へどのような悪影響が出るかわからない現時点では、生成AIを「臨床試験を経ていない新薬」のように扱うべきだと考えています。よって、子どもへの使用については非常に慎重な検討が必要だと感じています。

AI技術の進歩は目覚ましく、将来的には本稿で論じた問題の一部が解決される可能性もあります。しかし現時点では、特に言語発達の重要な時期にある小学生以下のお子さん——とくに幼児——に対してAIとの「おゃべり」を推奨することはできません。それでも、これからのAI時代に備えて、子どもに早めにAIに触れさせたいと考える保護者の方もいるでしょう。そうした場合には、「大人と一緒に、あくまで道具として」使う姿勢が大切だと考えます。

執筆者

川原繫人
川原繁人 かわはら しげと
慶應義塾大学 言語文化研究所 教授

KAWAHARA Shigeto
1980年、東京都生まれ。慶應義塾大学言語文化研究所教授。2002年、国際基督教大学卒業。2007年、マサチューセッツ大学大学院にて博士号(言語学)取得。ジョージア大学助教授、ラトガーズ大学助教授を経て現職。著書に『フリースタイル言語学』(大和書房)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む—プリチュワからカピチュウ、おっけーぐるぐるまで—』(朝日出版社)、『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか? —言語学者、小学生の質問に本気で答える—』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『言語学者、生成AIを危ぶむ—子どもにとって毒か薬か—』(朝日新聞出版)、『友だち以上恋人未満の人工知能—言語学者のAI倫理ノート—』(KADOKAWA)など。

参考文献

  • 川原繁人(2025)『言語学者、生成AIを危ぶむ:子どもにとって毒か薬か(朝日新書)』朝日新聞出版
  • 川原繁人(2026)『友だち以上恋人未満の人工知能:言語学者のAI倫理ノート』KADOKAWA
  • 川原繁人、折田奈甫、桃生朋子(2025)「子ども向け生成AI搭載おしゃべりアプリの危険性について:言語学的・心理学的・認知科学的観点から」、『慶應義塾大学言語文化研究所紀要』第56号、pp. 31-54.
    PDFファイル 慶應義塾大学学術情報リポジトリ