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| 水野太貴 『ゆる言語学ラジオ』スピーカー |
横山晶子 国立国語研究所 研究系 助教 |
■ ことばへの興味の原点
横山:言語学に興味を持ったのは、いつごろですか?
水野:ことばへの興味は、かなり早くからあったようです。車が好きで、親に「あの車は何ていうの?」と聞いて名前を覚え、車のチラシや中古車ガイドで音と文字の対応に気付き、まずカタカナを覚えました。それが2〜3歳ごろかな。小学生になると難読漢字をずっと書いていて、英語を習うと英文法や単語の語源にはまりました。ことばへの興味は途切れたことがありません。
横山:進学先に名古屋大学文学部の言語学専攻を選んだのはなぜですか?
水野:高校時代、名古屋大学の町田健先生の『言語学が好きになる本』を読みました。とても面白く、専攻は言語学しかないと思いました。それに、名古屋大学は僕の地元からも近かったのです。
横山:『ゆる言語学ラジオ』を見ていると、水野さんは勉強熱心で、本もたくさん読んでいるという印象があります。
水野:高校生のときは、本をたくさん読んでいました。受験期も、勉強に疲れると本を読み、当時はミステリー小説が多かったです。大学に入ってからは自堕落な生活になり本を読まなくなっていたのですが、就活を控えて、友達と「俺ら何もアピールできることがないな」と話し、「書店に行って1冊ずつ本を買って、読んで意見交換しよう」となりました。そのとき初めて新書を読んだのですが、こんな生活でも新書なら読めるなと思い、読書習慣がつきました。一度習慣になると、続けられるタイプなんです。
就活中は、月に少ないときで30冊、多いときで70冊ほど読んでいました。高速バスで名古屋から東京へ行っていたので、片道6〜7時間ずっと読書できるのです。いろいろな分野の本を読むようにしていました。今も月に20冊は読んでいます。
■ 一番大事にしていること
横山:『ゆる言語学ラジオ』を始めた経緯を教えてください。
水野:一緒にやっている堀元さんと初めて会ったのは、2020年の夏でした。堀元さんがウェブに書いている文章が面白かったので、連絡したのです。出版社で編集者をしている私にとって、才能のある人に声をかけるのも仕事ですから。そのときは、飲んで、しゃべって、楽しかったね、と別れました。しばらくして、11月ごろに堀元さんから長文の企画書が送られてきたのです。僕に動画で言語学の話をしてくれ、というものでした。夏に会ったとき、言語学についていろいろしゃべったのが、堀元さんに刺さったようです。12月に初めての収録をして、翌年2021年3月に『ゆる言語学ラジオ』チャンネルをつくりました。
横山:言語学研究の世界にいる者からすると、言語学の動画がこれほど人気になるとは驚きです。どんな話題がよく見られているのでしょうか。初めて見る人にお薦めの回があれば、教えてください。
水野:みんなが普段イライラしていることは、再生数が伸びますね。例えば「させていただく」の5回シリーズは、よく伸びました(#237-241)。でも、狙って当てにいったことはありません。自分が面白いと思った話題をやっている、それに尽きます。
初めての人には、「た」の回がおすすめです(#89-94)。「明日彼女の誕生日だった」の「た」は未来では? 「バスが来た」の「た」は現在では? といった話をしています。「た」を研究している先生から、面白かったと連絡をもらえたのもうれしかったです。その研究者をゲストに迎え、「た」の本質は東北方言を見るとすっきり理解できる、という回もつくりました(#249、250)。
横山:言語学の話を一般の人に伝えるときに、気を付けていることはありますか。国語研でも 動画教材「言語学レクチャーシリーズ」を制作・公開しているので、参考にしたいです。
水野:「言語学レクチャーシリーズ」は僕も見ていますよ。窪薗晴夫先生の「音韻構造と文法・意味構造」(Vol.1)とプラシャント・パルデシ先生の「語彙的類型論入門 色彩・温度語彙の体系と類型」(Vol.13)は、特に面白かったですね。
「言語学レクチャーシリーズ」は、勉強しようとノートを手元に置いてメモを取りながら聞くような人向けにつくっていますよね。僕らは、家事などをしながら聞く人を想定しているので、手元にメモがないと分からないような高度な話はできません。だから、専門用語は2個に絞るようにしています。
とはいえ、専門用語を制限していると、かえって訳が分からなくなることもあります。そこで、「ちょいガチ言語学ラジオ」として研究者にがっつり3時間以上にわたって教えてもらうという回を、音韻論、統語論、意味論でやりました(#275、304、375)。一部の人にしか見られないと思っていたのですが、音韻論の回は113万回再生されて、番組の中でも上位に入っています。難しくても長尺でも、工夫してつくれば聞いてもらえる。それが分かって驚きました。
横山:「ちょいガチ」以外でも、かなり専門的な話をしていますよね。それでも多くの人に聞いてもらうために、ほかにどんな工夫をしているのでしょうか。
水野:もう一つ気を付けているのは、特に研究者をゲストに迎える回では、講義にならないようにすることです。研究者の話を聞いて「へぇ、なるほど」とうなずくだけでなく、対等にディスカッション、というか雑談しながら話を進めます。『ゆる言語学ラジオ』は雑談番組なんです。
一番大事にしているのは、楽しそうにしゃべること。楽しそうに話していると、聞いてみようという気になりますよね。言語学のことを楽しくしゃべりたいというのが、僕が『ゆる言語学ラジオ』を続ける理由で、フィードバックが何もなくてもきっと続けるでしょう。でも、僕らが楽しそうにしゃべっているのを聞いて、なんか楽しそうだから自分もやってみようと思ってもらえると、やりがいを感じます。実際、フォロワーの中には、言語学に進んだ人もいます。読書が苦手な人向けに本の読み方をしゃべった回を見て、読書が習慣化したという人もたくさん見かけます(#354、355)。
■ 言語学への思い
横山:監修やゲスト出演の言語学研究者からは、どのような反応がありますか。
水野:僕らの話の中に、研究者が持っていない視点が含まれていて、喜ばれることがあります。論文になると言っていただくのですが、僕にはその能力がありません。ただ、それにコンプレックスはなく、役割分担だと思っています。論文を書く人は「生産者」、僕はアカデミックな知識を使ってエンタメコンテンツをつくる「消費者」です。そして、言語学全体で見たとき、観客も一定数いないといけません。僕は消費者の立場から、観客を増やしたり、その質を高めたりしていきたいと思っています。
横山:私は人文知コミュニケーターでもあり(取材時)、研究成果を分かりやすく社会に伝えることに取り組んでいます。人文知コミュニケーターにはもう一つ大事な役割があって、それは社会からの要望や反響を研究にフィードバックすることです。水野さんの斬新な視点から生まれた種を、研究者が育てることができたら、うまく循環しますよね。そういう例はあるのでしょうか。
水野:僕のアイデアが論文になった例はありませんが、番組をきっかけに共同研究が始まったケースはいくつかあります。それから、言語学者と言語学徒だけが参加できる飲み会を毎年開いています。言語学にもさまざまな分野があるので、学会では顔を合わせないような人たちが集まったら面白そうで、どうなるか見てみたかったのです。僕が言語学の話を浴びるほど聞きたい、というのもありますが。
横山:研究者の交流の場づくりをはじめ、さまざまな活動の背景には、どのような思いがあるのでしょうか。
水野:『ゆる言語学ラジオ』の再生数が急に伸びたとき、内容が不正確だと批判を受けたことがあります。それ以降は、監修の先生に入ってもらい明らかに誤った内容が台本に含まれることがないような体制を整えました。言語学に対する罪悪感は今もあります。迷惑をかけたので、言語学にとってプラスになることをしなければならないと思っているのです。
その一つとして、2025年8月に出た初の単著『会話の0.2秒を言語学する』の初版印税のうち100万円を、言語学の大学院生1人に返済不要の奨学金として渡すことにしました(応募は締め切られています)。アカデミックな知識を使ってエンタメコンテンツをつくったとき、その利益がアカデミックに十分還元されていない気がするのです。そうした還元ルートも必要で、そのロールモデルになれたらと思っています。
横山:アカデミックな場に呼ばれることも増えているのではないでしょうか。
水野:今のところはあまりないですね。それに、研究者が聞きに来ている会場で話すのは、ちょっとやりづらいですね。質疑応答で「素人質問で恐縮ですが」と言われるのかなと。それは冗談として、僕は研究者の皆さんが生み出したものを使わせてもらっているので、僕にできることがあれば協力したいと思っています。ぜひ利用してください。
横山:ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
ことばの波止場 Vol.15-1 記事一覧
- 特集 言語学を語ろう①:会話で気になる言葉があります
- 特集 言語学を語ろう②:水野太貴 特別インタビュー 言語学のことを楽しくしゃべりたい
- エッセイ:それ、言語学が解決します(谷口ジョイ)
- インタビュー:しまむに——その宇宙(横山晶子)
- 書籍紹介



『ゆる言語学ラジオ』公式サイト