国立国語研究所の研究者が関わった書籍を紹介します(2024年7〜12月発行)
ことばと公共性―言語教育からことばの活動へ―

牛窪隆太、福村真紀子、細川英雄〈編著〉、秋田美帆、有田佳代子、市嶋典子、尾辻恵美、佐藤正則、白石佳和、田嶋美砂子、徳田淳子、中川正臣、福永由佳、松田真希子、三代純平〈著〉
明石書店、2024年10月
「公共性」という概念は、20世紀のユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントらによって、公共哲学や法政治の分野を中心に議論されていますが、言語教育においてもその重要性が注目されています。本書は、言語教育を言語形式の習得に特化した営みから拡張した「ことばの活動」を志向する立場に立ち、ことばの教育の価値や意義を「公共性」の観点から問い直しています。日本語教育、韓国語教育、英語教育、文学教育を専門とする15人の執筆者がそれぞれの研究テーマや研究フィールドにつなげて執筆し、本書の最後にある「ダイアローグ」では本文には書き切れなかった執筆者の想いや想いの背景が編者とのダイアローグ形式で示されています。
言語学者も知らない謎な日本語―研究者の父、大学生の娘に若者言葉を学ぶ―

石黒圭、石黒愛〈著〉
教育評論社、2024年11月
私の専門は日本語教育です。前職では一橋大学で16年間、留学生に日本語を教え、現在は国語研で日本語を研究しており、日本語のことはわかっているつもりでした。ところが、最近わからない言葉に出会いました。若者言葉です。私には娘が3人いるのですが、姉妹が家庭内で話している日本語が理解できないのです。「まじ」が「がち」に、「すごい」が「やばい」さらには「えぐい」に進化しています。形容詞の「み」が増えて「うれしみ」「つらみ」が生まれ、「ナウい」のような外来語形容詞も「エモい」「チルい」と拡大傾向です。「ワンチャン」「それな」になると、完全にお手上げです。こうした若者言葉を、恥を忍んで娘たちに教わる本が、本書です。恥を忍ぶのは私だけで十分です。若者言葉にお悩みの方はぜひ本書でこっそり学んでください。
言語教育プログラムを可視化する―よりよいプログラム運営のために―

松下達彦、札野寛子〈編著〉
凡人社、2024年11月
言語教育プログラムの運営は、学習者のパフォーマンスにも教育機関の経営にも教職員の成長や福祉にも影響する重要な研究課題ですが、これまで十分に研究されていません。しかし、日本語教育機関の認定制度や国家資格登録日本語教員制度、実践研修機関・日本語教員養成機関の登録制度ができつつある今、プログラム運営を可視化し、共有し、改善に向けて取り組むことは喫緊の課題です。本書は言語教育プログラム研究会のメンバーが開発した「言語教育プログラム可視化テンプレート」の記入法を解説するという形態を取りつつ、言語教育プログラム運営に一石を投じるものです。日本語教育の例が中心ですが、テンプレート自体は言語教育プログラム一般について考える枠組みで利用できます。研修やFD(ファカルティ・ディベロップメント)での利用など、教育現場の改善に利用されることが期待されます。
読めない文字に挑んだ人々―ヒエログリフ解読1600年史―

宮川創〈著〉、河合望〈監修〉
山川出版社、2024年7月
古代エジプトのヒエログリフは、3000年以上使用された後に読めなくなりました。その解読への挑戦は、古代ギリシア・ローマ時代から始まり、中世アラブ世界の学者たちを経て、近代ヨーロッパへと続きました。本書は、ロゼッタ・ストーンなどの複数言語併用テキストとコプト語を手がかりにヒエログリフの謎を解き明かしたシャンポリオンに至るまでの1600年に及ぶ知的探究の歴史と、その後の研究の発展を描き出すものです。
数学の美―情報を支える数理の世界―

呉軍〈著〉、持橋大地〈監訳〉、井上朋也〈訳〉
東京化学同人、2024年12月
本書は、中国で70万部を超える大ベストセラーで各種の賞も受賞している『数学之美』第3版(呉軍 著)の翻訳版です。ことばをコンピュータで扱う自然言語処理の基礎について、そこでいかに数学的な定式化とモデル化が重要だったかを、技術が生まれるまさにその場にいた著者が解き明かす、類書のない本です。ほかにもコンピュータサイエンスのさまざまな話題が、一般の読者にも分かりやすく、平易に解説されています。ことばと数学の関係に興味を持つ皆さまに、ぜひ一読をお薦めしたいと思います。