標準語を話しているつもりでも方言のアクセントが出てくるのはなぜですか

標準語を話すときの方言のアクセントイントネーション

標準語を話しているつもりでも方言のアクセントが出てくるのはなぜですか? 地方出身者にとって標準語のアクセントやイントネーションの習得は難しいものなのでしょうか。

日本語訛り、方言訛り

人間は出身地の方言を母方言(first language、 L1)として生まれ育つことが普通ですが、日本語の場合、首都圏以外の地域の人が別の地域に移住したり、他の地域の出身者と話したりする時に標準語(共通語)を第2言語(second language、 L2)として使うことが多いようです。実際には、相手や場面に関わらず母方言を使う人や、それとは逆に、相手や場面に関わらず標準語を使う人もいますが、このようなモノリンガルな話者は少数派で、地方出身者の多くが―おそらく標準語教育やマスメディアの影響で―母方言と標準語のバイリンガルとなっています。

ところが、母方言と標準語のバイリンガル話者であっても、標準語を話している時に無意識のうちに母方言の特徴が出ることが珍しくありません。「母語の干渉」と呼ばれているもので、日本人が英語などの外国語を話す際に現れる、いわゆる「日本語訛り」と同質のものです。

L1 L2
方言間 母方言 標準語
言語間 母語(日本語) 外国語(英語、フランス語…)

L2を話す時にL1の影響(母語の干渉)が出てくるのは避けられないものですが、この影響の中でも顕著に見られるのがアクセントやイントネーション、リズムといったプロソディー(prosody)の特徴です。

「語」の特徴であるアクセント(たとえば日本語では「雨」と「飴」のメロディー(音の高低)の違い)や、句や文の特徴であるイントネーション(たとえば「あれはバラです」という平叙文と「あれはバラですか?」という疑問文のメロディーの違い)は、母音や子音などの特徴よりL2の発話に大きく影響すると言われています。日本語を流暢に話す外国人が、日本語の平坦でメリハリのないアクセント(「東京」や「日本語」のような平板型)やリズムを苦手としたり、[l]と[r]をしっかり区別できるようになった日本語話者でも、英語のメリハリのきいた強弱アクセントやリズムを体得できないというのはその一例です。

つまり、冒頭の質問にあるように、L1の語彙や文法より音声がL2の発話に影響を及ぼし、さらに音声特徴の中でも母音や子音よりプロソディーが母方言の干渉を引き起こしやすいのです。

「第二言語の発話に影響を及ぼしやすいのは?」プロソディーについてまとめたイラスト

日本人の英語が日本語訛りになってしまうのと同じ理由で、地方出身者の標準語には母方言のアクセントやイントネーションが出てきてしまうことになります。たとえば私のように鹿児島方言をL1とする話者は、「昨日」をkiNOoではなくKInoo、「ロンドン」をROndonではなくRONdonと発音してしまう傾向があります(大文字は高く発音されるところ)。標準語を話しているつもりでも、無意識のうちに母方言のアクセント特徴が出てきてしまうのです。

母語・母方言の獲得

では、語彙や母音・子音よりアクセントやイントネーションがL2の発話に出てきやすいのはなぜでしょうか。その理由は、人間が言語を獲得する際の順序に関係していると考えられています。

人間は言語を問わず、生後1年くらいで最初の言葉(初語、first word)を発し、徐々に語彙が増えていきます(Fromkin & Rodman “An Introduction to Language” 4th edition)。これに対し音声の獲得は語彙の獲得より早く、生後1年の間に—つまり初語を話し始める前に—「耳」による獲得が終わると考えられています(日本音響学会『音のなんでも小事典—脳が音を聴くしくみから超音波顕微鏡まで—』)。実はこの「耳」による獲得は、語彙の獲得とは違い徐々に増えていくものではなく、音声的な違いを聞き分ける能力が失われていく過程だと言われています。オギャーと産まれた赤ちゃんは人間の言語に存在するどのような音の違いも聞き分けることができるのに、母語で区別されていない音の違いは徐々に聞き分けることができなくなり、その結果、母語の母音体系や子音体系を確立していくというのです(Jakobson “Kindersprache, Aphasie und allgemeine Lautgesetze”)。

この過程も段階的であり、生後半年ほどでまず母語の母音体系を獲得し、生後1年で子音体系まで獲得すると言われています。たとえば日本語の環境で育った赤ちゃんであれば、生後6ヶ月頃には母語にない母音の区別―たとえば英語にある3種類のア([æ、 ɑ、 ʌ])の聞き分け―ができなくなり、1歳の誕生日を迎える頃には母語にない子音の区別―たとえば[l]と[r]の違い―も聞き分けられなくなるというわけです(窪薗晴夫『日本語の音声』)。

ではアクセントやイントネーションはどうかというと、その獲得は母音や子音よりもさらに早いと考えられています。生後間もない赤ちゃんが外国語より母語により敏感に反応するという実験報告もあるようです(日本音響学会『音のなんでも小事典—脳が音を聴くしくみから超音波顕微鏡まで—』)。母親のお腹の中にいる時にすでに母語となる言語・方言のメロディーやリズムを感じていて、オギャーと産まれ出た時には、母語のプロソディーにある程度まで慣れ親しんでいることを示唆しています。胎教という考え方に通じるものです。

母音や子音よりアクセントやイントネーションを先に獲得していることは、幼児の発話からも見て取れます。母音や子音の発音があいまいでも、語や文のメロディーやリズムは大人の発話と大きく変わらないのが一般的です。またオタマジャクシをオジャマタクシ、エレベーターをエベレーターと言うような幼児の言い間違いの大半は母音・子音の間違いで、アクセントやイントネーションの間違いはほとんど報告されていません。

以上の話をまとめると、赤ちゃんは言語を問わず、次のような順序で母語を獲得していることになります。

プロソディー(アクセント、イントネーション)→ 母音・子音 → 語彙

語彙、音声、プロソディー「人間が言語を獲得する際の順序」を図表にしたもの

三つ子の魂百まで

これに対し、喪失は獲得とは逆の関係にあり、後から獲得したものほど早く失われていきます(Jakobson “Kindersprache, Aphasie und allgemeine Lautgesetze”)。「三つ子の魂百まで」という諺にあるように、最初に獲得したものは失われにくく、最後まで残ってしまうのです。これは言葉の世界だけでなく人間の活動に広く観察される一般的な現象です。数字の学習であれば、二次関数や微分積分を忘れても、足し算・引き算などの基本的な算術は最後まで忘れることはありません。鉄棒体操では、大車輪や連続逆上がりなどの高度な体操ができなくなっても、前回りや逆上がりなどの基本的な体操は最後まで残ります。

外国語を話す場合でも、標準語を話す場合でも、母語(母方言)の干渉はこの獲得・喪失の順序と深く関係しています。L1で早く獲得した言語特徴ほど話者の中に深く浸透していて、L2を習得する際に大きな影響(母語の干渉)を及ぼすのです。日本語訛りの英語に、日本語のアクセントやイントネーションの特徴が出てくる―たとえばbanánaをbaNAnaではなくBAnana、WáshingtonをWAshintonではなくwaSHIntonと発音してしまう―のはこのためです(窪薗晴夫『一般言語学から見た日本語のプロソディー—鹿児島方言を中心に—』)。地方出身者が話す標準語も同様で、無意識のうちに母方言のアクセントやイントネーションが出てきてしまいます。これが「(方言)訛り」と呼ばれるものの大まかな実態です。

結び

日本人の英語発話にどのような母語干渉が現れるかは英語教育の中心的な研究課題であり、また日本語話者がL2として標準語を話す際に母方言からどのような影響を受けるかは、社会言語学の研究課題です。それと同時に、逆方向の研究も無視できません。日本語と英語の関係では、両言語のバイリンガル話者が増えることによって、日本語そのものがどのように変化していくかが興味深い問題となります。同様に、地方の方言と標準語のバイリンガル話者によって地方の方言がどのように変質していくかという問題も重要な研究テーマです(窪薗晴夫『一般言語学から見た日本語のプロソディー—鹿児島方言を中心に—』)。特に後者は、日本語の方言が急速に衰退している状況において喫緊の研究課題と言えます。

執筆者

窪薗晴夫
窪薗晴夫 くぼぞの はるお
神戸大学および国立国語研究所名誉教授

KUBOZONO Haruo
1957年、鹿児島県生まれ。エジンバラ大学Ph.D.(言語学、1988年)。専門は音韻論・音声学。神戸大学等を経て国立国語研究所教授(2010~2022年)。神戸大学および国立国語研究所名誉教授。近著に『一般言語学から見た日本語のプロソディー』『一般言語学から見た日本語の語形成と音韻構造』『一般言語学から見た日本語の音韻構造』(くろしお出版)、Word and Sentence Prosody: The Endangered Dialect of Koshikijima Japanese(De Gruyter Mouton)など。

参考文献

  • 窪薗晴夫(1999)『日本語の音声』(現代言語学入門2)、岩波書店
  • 窪薗晴夫(2021)『一般言語学から見た日本語のプロソディー—鹿児島方言を中心に—』 くろしお出版
  • 日本音響学会(編)(1996)『音のなんでも小事典—脳が音を聴くしくみから超音波顕微鏡まで—』(ブルーバックス)、講談社
  • Fromkin,Victoria and Robert Rodman(1988)An Introduction to Language. 4th edition. Holt, Rinehart and Winston, Inc.
  • Jakobson,Roman(1941/68)Kindersprache, Aphasie und allgemeine Lautgesetze [Child Language, Aphasia and Phonological Universals]. Mouton.
    邦訳:八幡屋直子(訳)「幼児言語、失語症および一般音法則」 服部四郎(編・監訳)(1976)『失語症と言語学』岩波書店