子供が「らりるれろ」をダ行だと思っているようで、お手紙に「ママらいすき(ママ大好き)」「いでる(入れる)」などと書くのですが、これはなぜでしょうか? 区別ができるようになるコツはありますか?
カロノウロンヤ
筆者が小学生の頃、1960年代の福岡市の子供のあいだでは「カロノウロンヤ」という遊び唄が流行っていました。歌詞は博多弁で「♪カロノウロンヤデウロンオクーテノロニヒッカカッテオロロイタ♪」。意味は「角のうどん屋でうどんを食べて喉にひっかかって驚いた」です。
ラ行とダ行の混同は日本語の方言では珍しい現象ではありません。九州以外では新潟が有名ですが近畿にも報告があり、程度の差こそあれ広い地域で観察される現象のようです。また普段は混同のない話者でも酔っぱらってろれつが回らなくなると「それでね」が「ソレレネ」になったりすることがあり、英語を母語とする人が日本語を学習する際にもラ行とダ行の区別に苦労することも知られています。
この混同が生じる原因ははっきりしています。子音や母音が音声器官のどのような運動によって生み出されるかを調べる研究を音声学といいますが、音声学的にみてラ行の子音/r/とダ行の子音/d/はよく似た音なのです。このことを理解してもらうには調音運動、つまり音声を生み出すための舌や唇や喉頭の協調運動を実際に観察してもらうのがよいでしょう。
調音運動の分析
筆者らが最近公開した『リアルタイムMRI調音運動データベース』(rtMRIDB、 https://rtmridb.ninjal.ac.jp)には日本語の様々な音声の調音運動が記録されています。そこから「アラ」/ara/と「バダ」/bada/の対を東京出身の標準語話者5名が発音した際の調音運動を集めたサンプルビデオを作ってみました(ビデオ1)。「バダ」の冒頭では/b/の子音のために上下の唇が接触しますが、これは無視して語中の/r/と/d/の調音に注目してください。
このビデオから分かるように「ラ」と「ダ」の調音はよく似ています。/r/でも/d/でも舌の先端部がもちあげられて上顎に接触します。この接触によって肺から流れ出る呼気流が乱されて生成されるのが/r/や/d/の子音です。
それでは日本語で/r/と/d/が別の子音として聞きとられるのは何故でしょうか。ふたつ重要な相違点があります。
持続時間の分析
ひとつは舌と上顎が接触している時間の違いです。/r/では接触がすぐに解消されるのに対し、/d/では接触が一定時間維持されるという違いです。先に見たビデオではこの違いがはっきりわからないかもしれません。そこで大量の音声を収録した『日本語話し言葉コーパス』の音声データを使って/r/と/d/の平均持続時間を調べてみました(語中位置に生じた/r/と/d/だけを調査対象としました。語頭では/r/や/d/の持続時間を測ることが難しいためです)。
約200名の話者のデータを調べた結果は下の表のようになりました。/r/、 /d/をはさむ前後の母音環境を6種類に変化させて調べました。例えば/a_e/は/are/と/ade/を意味しています。この表を見ると、どの環境でも例外なく/r/</d/の関係が生じていることが分かります。
| 子音 | 前後の母音環境 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| /a_a/ | /a_e/ | /a_o/ | /i_a/ | /i_e/ | /i_o/ | |
| /r/ | 27.3 | 29.0 | 30.3 | 26.8 | 30.2 | 29.7 |
| /d/ | 35.6 | 40.2 | 44.2 | 36.5 | 40.0 | 38.5 |
接触位置
もうひとつの相違点は舌と上顎の接触位置です。/d/では舌の先端部が前歯の裏面と歯茎の境界付近に接触しますが、/r/では歯茎のもう少し奥寄りに接触しています。この違いは先のビデオではっきり確認することができます。/r/や/d/が語頭にいきなり生じるときは持続時間の違いを聞き分けに利用することができません。そのような場合、接触位置の違いが聞き分けの手がかりになっていると考えられます。


母音の影響
以上ふたつの他に、もうひとつ知っておいてほしいことがあります。/d/では舌と上顎の接触する位置が比較的に安定しているのに対して、/r/ではかなり変動します。この特徴がはっきり見てとれる標準語話者4名の調音運動のビデオを作ってみました。「アラ」/ara/と「イリ」/iri/を比較すると、舌と上顎の接触位置は「イリ」の方が「アラ」よりもかなり前寄り(画面上で左寄り)になっていることがわかります。
まとめ
以上をまとめます。ラ行とダ行の子音は子音の持続時間と舌と上顎の接触位置の違いによって区別されており、さらにラ行の子音は前後の母音の影響で接触位置が細かく変動している可能性があります。これらはいずれも微妙な調整を必要とする調音です。そのため幼児の音声発達を調べた研究ではラ行子音の獲得が最も遅れることが知られています。
ですから5-6歳くらいの子供が混同をおこしていても心配する必要はありません。しかし、もっと上の学齢になっても問題が残っているようであれば、聴覚に問題がある可能性なども考えられるので、一度言語聴覚士のいる病院や福祉施設に相談してみるとよいでしょう。

参考文献
やや専門的ですが、保育園児が日本語の子音をいつ頃獲得していくかを調べた研究の結果が以下に報告されています。
- 高見観、北村洋子、加藤理恵、田中誠也、山本正彦(2009)「小児の構音発達について」『愛知学院大学心身科学部紀要』第5号 愛知学院大学心身科学会、pp.59-65.
愛知学院大学機関リポジトリ
完全に専門的になりますが、/r/の接触位置の変動についての仮説は以下の論文で提唱されています。
- K. Maekawa(2023)“Articulatory characteristics of the Japanese /r/: A real-time MRI study”. Proceedings of ICPhS 2023, Prague, pp.992-996.
International Phonetic Association
前川喜久雄

参考文献