『日本言語地図』(全 6巻、1966~ 1974年、大蔵省印刷局刊)は、「かたつむり」「つらら」「大きい」など 260のことばについて、全国の方言を収集し、地図化したものです。調査は、 1957(昭和 32)年から 1965(昭和 40)年にかけて、全国 2400地点で行われました。方言の話し手は、 1903(明治 36)年以前に生まれた各地生え抜きの方々です。ここには、共通語の影響が今のように及ばなかった時代の、全国的な方言の状況が記録されています。
今回はこの中から、「ものもらい」の方言地図がデジタルマップ化されました。「ものもらい」は、目の縁にぷつっとできる小さなできもののことですが、若い人たちの会話の中でも、時に、地域による違いが話題になることばだといいます。デジタルマップ化には、「日本語情報資料館:『日本言語地図』データベース」(http://www.kokken.go.jp/lajdb/)で公開されている電子化データを使用しました。
この Web版デジタルマップシステムには、紙媒体の出版物にはない、いろいろな機能が付加されています。とりわけ大きな特徴は、閲覧者が、 Web上の地図の自分が選んだ地点に、自分の知っている方言を、自分で書き込むことができる、という点です。こうして新たに書き込まれた情報は、『日本言語地図』から 50年後の現在の方言の状況を示すことになります。また、最も多く回答された方言形は「メバチコ」で、近畿地方を中心に分布している、といったことも一目でわかります。
国立国語研究所では、この取り組みを、日本全国の広い地域の多くの人たちから、日本語の使用実態や言語意識について、迅速にデータを収集するための手法開発のテストケースと位置付け、インターネットの分野で高い技術力を持つヤフー株式会社と連携して研究を行ってきました。
この特集では同時に、国立国語研究所の過去の言語生活調査で行ったのと同じ、言語意識に関するアンケート調査も実施しました。実は、このような Web調査は、書き込んだ人の言語的背景が十分に把握できないなど、言語調査としての問題点も指摘されています。エンターテインメントの要素も加味した Webサイトで迅速に大量のデータを収集することと、学術研究目的での利用に堪えるデータの質を確保すること─ その両立については、収集したデータの分析とともに今後の課題と言えるでしょう。
(三井 はるみ)

Web版デジタルマップ「ものもらい」の全国表示画面と地域表示画面