方言って何ですか? 方言はなぜできたのですか?
方言とは場所によることばの違いです。もう少し正確に言うと、同一系統(同じ祖先から分かれた)言語の中での場所によることばの違いです。日本語と中国語は使われている場所が違いますが、同じ系統の言語ではないので、方言ではありません。
同じ日本語でも、大阪と東京ではことばの違いがあります。野菜の「茄子」のことを大阪ではナスビと言い、東京ではナスと言います。「行かなかった」を大阪では行カヘンカッタと言い、東京では行カナカッタと言います。このような場所によることばの違いが方言です。
「方言」という語は、二つの意味で使われます。次を較べてみましょう。
- 大阪の方言では、「茄子」のことをナスビと言う。
- 大阪には、ナスビという方言がある。
(1)のように「大阪の方言」と言う場合、大阪で使われることばの総体を方言と言っています。一方、(2)のように「ナスビという方言」の場合は、ナスビのような個別の単語を指して方言と言っています。
方言の研究を行う方言学では、(1)にあたるものを「方言」、(2)にあたるものを「俚言」と呼んで区別することがあります。もっとも、方言学者も常に使い分けるわけではなく、ともに「方言」と言うことも多いのですが、誤解が生じることを避ける必要がある場合は、これらの用語を用いて区別します。
そのことを念頭に置きながらも、ここでは区別せずに、方言として話を進めます。
それでは、方言はなぜできたのでしょうか。方言が生まれるきっかけは、言語変化です。
言語変化とは、その名のとおり、ことばの変化です。ことばは、必ず変化します。言語変化をこうむらずに、長期にわたって同じ状態を保持する言語はありません。(なぜことばが必ず変化するのか、については大きな課題ですので機会をあらためて扱えればと思います。気になる方は参考文献にあげた大西拓一郎(2023)『方言はなぜ存在するのか』などをご覧ください。)
そのような言語変化ですが、どこでもいっせいに変化が発生するとは限りません。
AとBという隣接する地域があると想定しましょう。AとBの両方で同じxという言い方をしていました。
あるときAではxをyにする言語変化が起きました。しかし、Bではそれが起きませんでした。そうするとAではy、Bではxというような場所によることばの違いが生まれることになります。このようにして方言はできるのです。

実際の例をあげましょう。図は、「犬に追いかけられた」のような受け身を表す場合、「~に」にあたる助詞をどのように言うかを表した地図です。場所は、青森県を中心とした東北地方の北の方です。
1980年代はニが広く使われていました(犬ニ追いかけられた)。2010年代になるとおもに青森県でニがサに変化しました(犬サ追いかけられた)。このことで、青森県はサ、それ以外はニという場所による違いができたことがわかります。

1980年代の分布は『方言文法全国地図』、2010年代の分布は『新日本言語地図』をもとにしています。
このような地域間における言語変化の進行の異なりによって、方言、つまり場所によることばの違いができると考えられます。
それでは、言語変化がもたらす新しいことばの分布はどのような範囲にできるのでしょうか。実は、これは大きな課題です。人間の交流や社会、また生活のありかたとの関係に注意しながら、研究が進められています。
参考文献
参考文献
- 国立国語研究所編(1970)『日本言語地図』、第4集181図「なす(茄子)」
- 国立国語研究所編(1989)『方言文法全国地図』、第1集27図「犬に(追いかけられた)」
- 国立国語研究所編(1999)『方言文法全国地図』、第4集151図「行かなかった」
- 大西拓一郎(2016)『ことばの地理学 : 方言はなぜそこにあるのか』大修館書店
- 大西拓一郎編(2016)『新日本言語地図 : 分布図で見渡す方言の世界』93図「犬に(追いかけられた)」朝倉書店
- 大西拓一郎(2023)『方言はなぜ存在するのか : ことばの変化と地理空間』大修館書店
おすすめの本
- 高阪宏行(2024)『地理学の思考 : 位置、空間、場所、移動、自然と社会』古今書院
大西拓一郎

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