書籍タイトルに「9割」という表現がよく見られますが、書籍タイトルの付け方に流行はあるのでしょうか。
書籍タイトルの付け方にも流行があります。数字を用いたものは以前はあまりありませんでしたが、2000年代に入ってから増加している表現があります。
1.数字を使った書籍タイトル
本屋さんに行くと、本を探すときに私たちは必ず書籍のタイトルを見ます。近年、書籍タイトルに数字を用いたものが目につくようになりました。『世界がもし100人の村だったら』(2001)が各国で翻訳され、話題になったことがあります。他にも書籍タイトルに割合を表すものをよく見かけるようになりました。数字がタイトルに入っていると、インパクトがあります。国立国会図書館には納本制度によって出版された書籍が広く収集されています。書籍タイトルに「〇割」が使われているものを調べてみました(2020年9月まで)。すると「1割」~「10割」まですべて使われているのです。

最も多いのが「9割」755例、次いで「8割」172例、次はグッと減って「3割」59例です。反対に最も少ないのは「6割」16例です。「4割」17例、「5割」18例なので、真ん中あたりの割合はいずれも少ないです。すべての割合が使われるといっても、かなり偏りがあることがわかります。
2.いつから〇割が使用されているのでしょう
初出は1960年代です。半世紀以上前から使われています。(以下、用例は書籍タイトルと出版年のみを記載します。)
* 初版の出版年は不明
さて、書籍タイトルで「〇割」という表現が増加したのは、2000年代後半からです。2001~2005年は全体で36例でしたが、2006~2010年は180例、2011~2015年は425例と著しく増えています。ここからは最も用例数の多い「9割」を中心にみていきます。例を挙げてみましょう。
髪の悩みが9割解消する頭ツボ(2012)
9割の老眼は自分で治せる(2015)
成功体験は9割捨てる(2020)
美容はメンタルが9割 = The Mind-Beauty Connection(2020)
興味深いタイトルになっており、問題がおおかた解決するような印象を受けます。表現は「~の9割は□□」「9割の~は□□」「9割□□」「~は□□が9割」などさまざまです。これらのうち「~は□□が9割」はよく見かけるフレーズですね。この表現について詳しくみていくことにします。
3.「~は□□が9割」 — ミリオンセラーの影響力 —
「~は□□が9割」のフレーズを用いた書籍タイトルは多く、755例のうち137例みられます。ある時期を境に増えていきます。それはこのフレーズの初出例である
が影響しています。2005年10月に刊行され、2007年3月には累計発行部数100万部に達しています。大ヒットですね。今ではこのフレーズは当たり前のようになじんでいますが、当初は違いました。この書籍が出版された当時の反響をアマゾンのレビューから拾い出してみました。
タイトルが強烈
存在感のあるタイトル
タイトルに惹かれて読んだ
本好きの人たちから見ても、タイトルは印象に残るものであったことがわかります。この書籍の大ヒットに影響され、「~は□□が9割」のタイトルをつけることが流行っていったのです。
稼げる男は食事が9割(2016)
テニスはインパクトが9割(2017)
人間関係は「そとづら」が9割(2018)
名建築は体験が9割(2018)
これらは一例ですが、『人は見た目が9割』のヒット後は同じフレーズを使うタイトルが後を絶ちません。2005年以前にはみられなかった表現です。「~は□□が9割」というと、そうかもしれないと思わせる、本当らしさをかもし出しているといえるでしょう。
4.「□□が9割」の登場
さらに「~は」を省略した「□□が9割」もみられるようになりました。
聞き方が9割(2013)
伝え方が9割(2013)
これらの例も『人は見た目が9割』の出版後にみられる表現であることから、影響されているといえます。そしてこの中にもミリオンセラーがあります。それは『伝え方が9割』で、『まんがでわかる伝え方が9割』などと合わせてシリーズ143万部を突破しています。歯切れよく簡潔に言い得ているタイトルは手に取りやすいものだといえるでしょう。この書籍も「9割」のタイトル増加に一役買っていると考えられます。
「9割」というのはどの程度か具体的で想像しやすいですね。100%ではないゆるさが魅力的なのかもしれません。

5.まだまだ増える書籍タイトル「9割」
今回のデータは2020年9月刊行までの書籍を対象に2020年11月13日現在で得られたものを使っています。その後出版されたものを追ってみると、「9割」を用いた書籍タイトルはそれぞれ6例(2021)、9例(2022)、13例(2023)みられます。しばらくは使われるのではないかと思われます。
何気なく手にした書籍は、もしかすると流行の表現が使われているものかもしれません。あなたが読んでみたいと惹かれる書籍タイトルはどのようなものですか。
参考文献
調査資料
- 国立国会図書館サーチ
*調査は2020年9月までのデータを対象とする(2020年11月13日現在)。
2021年以降のデータは別途検索(2024年7月19日現在)。 - Amazon
参考文献
- 中尾比早子(2021)「書籍タイトルにみる「9割」の用法」『artes liberales』31、日本工業大学、pp.29–40.
- 森岡健二、山口仲美(1985)『命名の言語学:ネーミングの諸相』東海大学出版会
- 弓削徹(2022)『売れる!広がる!!口コミされる!!!ネーミングの極意』明日香出版社
櫛橋比早子

参考文献